市立貝塚病院産婦人科は、泉州広域母子医療センターの婦人科医療センターとしての役割を担っています。中でも、婦人科領域の良性、悪性腫瘍を中心とした婦人科疾患を取り扱うのが「婦人科腫瘍センター」です。
地域がん診療拠点病院としてすべての婦人科悪性疾患に対応し、手術・化学療法・放射線治療の集学的治療で関西でも有数の婦人科がん治療数を手がけています。
子宮頚がんは、子宮の入り口(子宮頚部)に発症するがんで、婦人科がんでは最も頻度の高いがんです。30~40歳代で多く診断されています。40歳以上では減少傾向ですが、20~30歳代の若い女性は増えています。子宮頚がんの発症には、HPV(ヒトパピローマウイルス)の感染が原因となることが明らかになっています。
子宮頚部異形成や初期の子宮頚がんの場合、自覚症状が全くないのがほとんどです。症状が出た場合は、ある程度進行していると考えられます。
子宮頚がんの発生原因の多くは、HPV(ヒトパピローマウイルス)による感染です。HPVは性交渉で感染するウイルスですが、HPV感染は女性にはよく見られるもので、多くは免疫力によって自然に排除されます。
HPVには100種類以上のタイプがあり、その中で子宮頚がんの発生と関係があるのは13種と言われています。これらのHPVに感染し、免疫がうまく機能せず長期の感染が続くと細胞に異変(異形成)が起こり、そこからがんに進行していきます。
子宮頚部異形成は、軽度や中等度であれば自然治癒する場合もあり、早急な治療対象とはなりません。
子宮頚部異形性が進んだ高度異形成やごく初期のがんでは「子宮頚部円錐切除術(子宮頚部を円錐状に切除する)」による確定診断と治療を実施しています。
当院は「子宮頚がんに対する腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術」の登録施設Aであり、全国で126ある施設のうちの一つです。早期子宮頚がんに対しては創が小さく負担の少ない腹腔鏡下手術を保険診療で行うことができます。
妊娠の可能性を残した妊孕性温存治療を積極的に行っています。当院は、早期子宮頚がんに対して、「妊孕性温存が可能な広汎子宮頚部全摘出」を行っている数少ない施設の一つでもあります。
排尿障害などの後遺症軽減のための「神経温存広汎子宮全摘術」を行うなど、より侵襲の少ない安全な縮小手術での完全治癒をめざし、QOL(生活の質)の向上にも努めています。
手術治療の他、化学療法を行って腫瘍を縮小させてからの手術療法(NAC後手術)や、副作用の少ない高精度放射線治療装置と化学療法を併用した化学放射線同時療法(CCRT)を選択します。
浸潤した子宮頚がんの根治には、子宮・膣の一部・骨盤リンパ節・卵巣・卵管を切除する広汎子宮全摘出術が一般的です。そのため、妊娠が不可能になるという課題があります。
当院では、手術後も妊娠を希望される患者さまに対し、病状を充分に考慮したうえで、子宮頚部のみを切除し子宮体部を温存する「広汎性子宮頚部摘出術」を行っています。子宮体部を残すことで、妊娠・出産の可能性(妊孕性)を残すことができます。
この「広汎性子宮頚部摘出術」では、子宮体部と腟の一部をつなぎ合わせて再建します。切除範囲の判断や子宮の機能を残した再建など、非常に高い技術が求められるため、全国でも数少ない施設でしか実施できません。
広汎子宮全摘出術は、子宮・膣の一部・骨盤リンパ節・卵巣・卵管を切除する手術です。その際、排尿に関係する神経の一部に損傷を与えることで、尿意を感じたり尿を出すことが難しくなることが時々あります。排尿障害は、尿路感染症の原因となるなど、患者さまのQOL(生活の質)を大きく低下させてしまいます。
「神経温存広汎子宮全摘術」は、排尿神経を温存しながら根治のために腫瘍を充分に切除するもので、初期の進行がんで大きさが比較的小さい場合が対象となります。
子宮頚がんは、がんになる前の「異形成」の状態での早期発見と治療ができれば、怖がる必要はありません。早期発見と治療のためには、定期的な子宮頚がん検診(子宮頚部細胞診)の受診が何よりも重要です。しかし残念ながら、わが国の「子宮頚がん検診」の受診率は20%台と欧米諸国に比べ非常に低い数値です(参考:アメリカ・イギリスは70%台)。
未来の子供と自分を守るために、「子宮頚がん検診」を2年に1度は受けましょう。
市民健診による「子宮がん検診」の他、当院の健診センターでの「がん検診/女性オプション」など、子宮頚がん検診にも尽力しています。
小学6年から高校1年の方に対する公費でのワクチン接種において、9価HPVワクチン(シルガード®9,MSD株式会社)が選択可能となりました。子宮頚がんの原因の80-90%を占めるウイルス型感染を予防することができます。対象や予防効果に関して、是非当科までご相談ください。
子宮体部は妊娠した時に胎児を育てる部分で、子宮内膜組織から発生するのが子宮体がんです。40歳代後半から増加し、50歳代60歳代の罹患率が高くなります。
自覚症状として重要なのは不正出血です。おりものに血や膿が混ざるなどの異常がある場合も、検査を受けてください。発症時期が更年期や閉経の時期に重なることが多いですが、不正出血などのサインを「ホルモンバランスの乱れ」などと判断して見逃さず、早期発見することが重要です。
下腹部痛や下肢の浮腫や痛み、排尿障害や排便障害が起こることがあります。
子宮体がんの発生は、エストロゲン(女性ホルモン)の子宮内膜への刺激が長く続くことが原因とされるものが約80%、残りはエストロゲンとは関連のない原因と言われています。エストロゲンが原因となる子宮体がんでは、エストロゲンにさらされている期間が長い程リスクが高くなります。皮下脂肪もエストロゲンを作ることに関与するため、肥満の方も高リスクとなります。
当院では、積極的な手術治療でⅠ期では100%に近い5年生存率という治療成績を上げています。
日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医および日本婦人科腫瘍学会専門医の高い技術のもと、体への負担が少ない腹腔鏡下手術も受けていただけます。
治療は手術による子宮および両側卵巣・卵管の摘出が中心となります。
病巣の摘出が難しい場合や手術後の補助治療として、化学療法(抗がん剤)や放射線治療なども行う場合があります。また、妊娠を望まれる場合は、がんの種類によってはごく初期の場合に限り、ホルモン剤による治療の道もあります。病勢によってリンパ節を取り除くリンパ節郭清(骨盤~傍大動脈リンパ節郭清)を追加します。
市民検診など、一般的に「子宮がん検診」と言えば、子宮頚部細胞診による「子宮頚がん検診」のことです。子宮体がんの検査は、何らかの自覚症状が出た際に受けることになります。自覚症状を見逃さず、産婦人科を受診してください。しかし、特に子宮体がんの発症リスクの高い方は、定期的な検診をおすすめします。
当院の健診センター「がん検診」には、女性オプションがあります。子宮頚がんだけでなく、子宮体がんも対象にした「婦人科エコー検査」や「腫瘍マーカー検査」なども受けられます。
子宮体がんの診断には子宮内膜細胞診などが必要ですが、「エコー検査」や「腫瘍マーカー検査」は診断のための検査を行う前のスクリーニング(ふるいわけ)として有効です。
若年者の早期がんに対しては患側卵巣の摘出だけの縮小手術を行っています。進行卵巣がんに対しては、傍大動脈リンパ節郭清を含め徹底した根治術を施行しています。術後の残存腫瘍の大きさが予後に影響するというエビデンス(臨床結果などの科学的根拠)があることから、外科や泌尿器科の協力により腸切除などを含め腹腔内病巣をできる限り摘出します。 術前術後の抗がん剤と手術療法の併用で、長期生存を可能としています。日本婦人科悪性腫瘍機構(JGOG)・大阪大学を中心とする大阪婦人科腫瘍研究会(GOGO)の臨床研究にも積極的に参加し、最新の治療を行っています。
症状が強く、保存的治療では困難な場合に手術治療を選択します。子宮温存(筋腫核出術)に関しては、適応があえば腹腔鏡下手術・子宮鏡下手術にも対応しています。子宮全摘術は、疾患の状態により、腹腔鏡下手術・開腹手術・経腟腹腔鏡下手術(vNOTES)・ロボット支援腹腔鏡下手術(ダヴインチXi)、いずれも豊富な経験の下、最善の方法を選択します。
画像診断で良性と判断した場合は基本的に腹腔鏡下手術・経腟腹腔鏡下手術(vNOTES)で行っています。
症状が強く、保存的治療では困難な場合に手術治療を選択します。子宮全摘術は、疾患の状態により、腹腔鏡下手術・ロボット支援腹腔鏡下手術(ダヴインチXi)・開腹手術、いずれも豊富な経験の下、最善の方法を選択します。
骨盤臓器脱とは、女性の骨盤内は骨盤底筋群という筋肉や靭帯によって支えられています。 この骨盤底筋群が、出産・加齢・肥満などで緩んでしまい、骨盤内の臓器(膀胱・子宮・直腸・小腸)がだんだんと下がってきて、 腟から出てきてしまう病気です。
治療については、症状が軽い場合は腟や肛門の筋肉を鍛える骨盤底筋体操を行います。症状が強い場合は腟の中にペッサリーというリングを入れる方法があります。患者さんの体格や腟の状態に合わせてサイズを選んでいきますが、違和感を強く感じる方もいます。また、腟の炎症をおこしやすく、出血や帯下の増加がしばしばおこるので、定期的な交換が必要です。ペッサリー療法がうまくいかない場合、手術療法を行います。
手術の方法は様々あり、脱出部位・年齢・ライフスタイルなどにより最適な方法を選択します。当科では、比較的年齢の若い方はメッシュ(網状の医療用人工繊維)を用いた腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)や、糖尿病などでメッシュの使用が難しい方は、腹腔鏡下腟断端仙骨子宮靭帯固定術(Shull法)を行っております。
状態によっては経腟腹腔鏡下手術(vNOTES)、ロボット支援腹腔鏡下手術(ダヴインチXi)で行うことがあります。いずれの方法も術後の性交渉が可能です。ご高齢の方は腟を閉鎖することも多いです。
帝王切開瘢痕症候群とは、帝王切開は子宮を切開して、赤ちゃんを取り出す手術なのですが、切開した子宮の壁を針糸で縫合して修復します。人によっては、縫合した部分が凹んで瘢痕ができることで、月経の異常(不正性器出血・過多月経・月経困難症)が起きたり、不妊症の原因になることがあると考えられています。帝王切開による分娩の増加に伴い、帝王切開瘢痕部症候群も増加しており、2022年4月より腹腔鏡下子宮瘢痕部修復術が保険収載されました。
妊娠を希望する場合には手術療法が有効である可能性が高いと考えられています。手術は子宮鏡で子宮の内側から瘢痕部を切除する方法と、腹腔鏡下に子宮の外側から瘢痕部を切除する方法があります。当院では必要に応じて、両者を併用する手術を積極的に行っております。瘢痕部の範囲がどれだけあるのかを見極めることが難しいため、腹腔鏡下手術と子宮鏡下手術両方に慣れた術者どうしが連携することが重要で、チーム力が必要と思われます。
妊娠を希望されない場合は、薬物療法や子宮全摘術により治療します。
症状のある子宮内膜ポリープは、IBS®シェーバーによる日帰り子宮鏡手術を積極的に行っております。
当院は日本産科婦人科学会専門医制度専攻医指導施設・日本婦人科腫瘍学会専門医制度指定修練施設・日本産科婦人科内視鏡学会認定医研修施設で、産婦人科専門医・婦人科腫瘍専門医・内視鏡技術認定医のすべての取得を目指すことができる数少ない施設の一つです。
2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
婦人科手術件数 | 613 | 655 | 679 | 697 | 810 | ||
1. | 悪性腫瘍手術 | 200 | 170 | 189 | 203 | 179 | |
円錐切除術 | 83 | 61 | 67 | 68 | 59 | ||
子宮頚がん (内腹腔鏡下手術) |
21 (3) |
20 (5) |
20 (2) |
14 (3) |
9 (3) |
||
子宮体がん (内腹腔鏡下手術) |
50 (21) |
51 (13) |
51 (26) |
41 (18) |
61 (17) |
||
卵巣がん | 28 | 26 | 36 | 44 | 37 | ||
卵管がん | 0 | 1 | 3 | 3 | 0 | ||
腹膜がん | 1 | 0 | 1 | 4 | 2 | ||
子宮肉腫 | 4 | 4 | 0 | 1 | 2 | ||
子宮内膜異型増殖症 (内腹腔鏡下手術) |
7 (6) |
1 (0) |
3 (2) |
2 (2) |
7 (5) |
||
その他(外陰がん・膣がん・再発がん) | 6 | 6 | 8 | 5 | 2 | ||
2. | 内視鏡手術 | 309 | 377 | 399 | 432 | 513 | |
(a) | 腹腔鏡手術 | 267 | 320 | 321 | 369 | 384 | |
子宮全摘術 | 腹腔鏡下 | 111 | 134 | 171 | 176 | 126 | |
ロボット支援下 | - | - | - | - | 23 | ||
VNOTES | - | - | - | - | 17 | ||
計 | 111 | 134 | 171 | 176 | 166 | ||
子宮筋腫核出術 | 26 | 40 | 16 | 13 | 20 | ||
卵巣腫瘍・内膜症 | 117 | 127 | 109 | 142 | 155 | ||
仙骨膣固定術 shullなど | 腹腔鏡下 | 5 | 11 | 12 | 19 | 14 | |
ロボット支援下 | - | - | - | - | 9 | ||
計 | 5 | 11 | 12 | 19 | 23 | ||
その他(異所性妊娠など) | 8 | 8 | 13 | 23 | 20 | ||
(b) | 子宮鏡手術 | 42 | 57 | 78 | 63 | 129 | |
3. | 開腹良性疾患手術 | 58 | 45 | 42 | 35 | 30 | |
子宮全摘出術 | 41 | 37 | 29 | 19 | 28 | ||
子宮筋腫核出術 | 11 | 3 | 3 | 10 | 1 | ||
卵巣腫瘍 | 6 | 5 | 10 | 6 | 1 | ||
4. | 膣式手術 | 33 | 43 | 34 | 54 | 64 | |
性器脱 | 17 | 18 | 23 | 31 | 26 | ||
その他(レーザー、バルトリンなど) | 16 | 25 | 11 | 23 | 38 | ||
5. | その他 | 13 | 20 | 15 | 17 | 24 |
よこい たけし
横井 猛
副院長、産婦人科主任部長、共同診療部長、中央手術部長、婦人科腫瘍センター長、入退院支援センター長
専門分野:
産婦人科全般、婦人科腫瘍(良性・悪性)、内視鏡下手術資格:
・日本産科婦人科学会専門医 / 指導医
・日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医 / 指導医 / 代議員
・日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医 / 技術認定審査員 / 評議員
・日本内視鏡外科学会技術認定医
・日本がん治療認定医機構がん治療認定医
・日本女性医学学会女性ヘルスケア暫定指導医
・近畿産婦人科内視鏡手術研究会理事
・大阪産婦人科医/ 代議員
・母体保護法指定医
・医学博士(大阪大学・第16449号)
・難病指定医
・「The Best Doctors in Japan」2024-2025
おか ふじひろ
岡 藤博
産婦人科部長
資格:
・日本産科婦人科学会専門医
・日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医
・日本外科学会専門医
・母体保護法指定医
・日本周産期・新生児医学会NCPR専門コース修了
よしむら あきひこ
吉村 明彦
産婦人科部長
資格:
・日本産科婦人科学会専門医・指導医
・日本がん治療認定医機構がん治療認定医
・日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医・指導医
・母体保護法指定医
・日本周産期・新生児医学会周産期専門医(母体・胎児)
たなか あすか
田中 あすか
産婦人科副部長
資格:
・日本産科婦人科学会専門医
・日本がん治療認定医機構がん治療認定医
・日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医
ながせ よしかず
永瀬 慶和
産婦人科副部長
資格:
・日本産科婦人科学会専門医・指導医
・母体保護法指定医
・日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医
・日本内視鏡外科学会技術認定医(産婦人科領域)
・日本がん治療認定医機構がん治療認定医
・医学博士(大阪大学)
いちかわ ふゆき
市川 冬輝
産婦人科医長
資格:
・日本産科婦人科学会専門医
・日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医
・日本内視鏡外科学会技術認定医(産婦人科領域)
・日本がん治療認定医機構がん治療認定医
・米国消化器内視鏡外科学会(SAGES)Fundamental Use of Surgical Energy(FUSE)資格者
・Certificate of da Vinci Technology Training as a Console Surgeon(手術支援ロボット「ダヴィンチ」執刀ライセンス)
まつたに かずな
松谷 和奈
産婦人科副医長
専門分野:
産婦人科資格:
・日本産婦人科学会専門医
・母体保護法指定医
こいけ まこと
小池 真琴音
産婦人科副医長
専門分野:
産婦人科資格:
・日本産婦人科学会専門医
のむら ゆか
野村 友香
産婦人科医員
かわさき ちかほ
川崎 悠歩
産婦人科医員
なかむら まい
中村 舞
産婦人科医員